徳和の四季
【 春 】
徳和の春は、私が住んでいる町より少し遅れてやってきます。春先はまだ肌寒く、祖母の家ではコタツやストーブを使っています。桜の花も、ゴールデンウィークくらいまでは咲いているので、うっかり忙しくてお花見が出来なかった人は、徳和に来くれば桜を楽しむことができます。山里なので、鶯の声はとても近くに聞こえ、桜が散った後は、山の新緑がとても目にまぶしく、綺麗です。かえるの卵も、池や川でとることができ、バケツでそれを育てると、とてもたくさんのおたまじゃくしと出会えますが、かえるになってしまうと、知らず知らずのうちにバケツから飛び出ていなくなってしまいます。山に行くと、たらの芽やわらびなどたくさんの山菜がとれ、それをてんぷらで揚げてもらい、塩を少しつけて食べると、本当においしいです。

【 夏 】
徳和の夏は、私が住んでいる町よりも、断然涼しく、どこの家にもクーラーはないと思います。なぜなら、自然の風がクーラーだからです。家の作りも、風がどこからも抜けるように造られているようで、東西南北に窓があり、そこを空けて座敷でお昼寝をすると風が通ってとても気持ちよく眠れます。ミンミンゼミやヒグラシの声がよく聞こえ、自然の声でリラックスすることが出来ます。山の中なので突然曇ってきて、雨が降り出すことがあり、洗濯物を干しているときは注意が必要です。初夏の六月頃には、ムカデが家の中にでてくることがありますが、そのムカデを殺してはならないという言い伝えがあります。それは、武田信玄と関係があり武田家には武田ムカデ隊という伝令隊がおり、この伝令隊は徳和の出身者だったことから、尊い生き物だとされているからです。また、ムカデが山の主として甲斐金山の採掘(さいくつ)でトンネル工事の時に安全を祈願した生き物だから・・とか、言い伝えがあります。

【 秋 】
徳和の秋は、私が住んでいる町より一足早く、秋のいろどりを告げてきます。桜やかえでなどは綺麗に紅葉し、ススキの穂が銀色に輝いて見えます。栗やくるみが落ちている場所に行き、それを拾うのもとても楽しいです。夜、徳和道を通ると、しかの集団やいのししに出会うことがけっこうあります。(本物のサファリパークです)動物達にとっては冬に向けて食べ物を蓄(たくわ)える季節なのでしょう。しかし、この時期になると、日照時間が短くなり、午後三時ごろには、日が落ちてしまいます。そしてまもなく、秋深き徳和の小盆地は冬へとむかっていくのです。

【 冬 】
徳和の冬は、秋との境目を感じる暇もなく、知らず知らずのうちにやってきます。12月に入り冬が深まると、雪が村を薄化粧し、山々は深い霧につつまれていきます。まるで、冬の期間は時間が止まったような錯覚(さっかく)さえ覚えますが、そんな中、1月には道祖神祭、徳和の天神祭が行われます。この伝統を守るために、準備から祭当日まで村を揚げて村人達は取り組みます。この時期は徳和が活気づき、美しく輝く瞬間でもあると思います。ある写真家の方は、「徳和盆地の冬の情景は、祭りの舞台にふさわしい。これが写真家を魅了する理由です。」と言っています。私から見ても、徳和の冬は寒いけれど、風情(ふぜい)があって心が落ち着くそんな場所です。
